背骨治療の専門医に聞いてみました
腰や下肢の痛み、足のしびれは改善が可能です原因を見極め専門医と一緒に適切な治療法を選択しましょう
JCHO 大阪病院
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CHAPTER01腰部脊柱管狭窄症と腰椎椎間板ヘルニアの主な原因と症状
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CHAPTER02進化した低侵襲手術で身体への負担が大きく軽減
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CHAPTER03術後のリハビリテーションと退院後の日常生活での注意点
坂浦 腰部脊柱管狭窄症では、下肢の痛みやしびれはあるものの、まだ日常生活に大きな支障が出ていない方が保存治療の適応となります。腰部脊柱管狭窄症には両脚に症状が出る馬尾型と、片脚に症状が出る神経根型、両方のタイプの症状が表れる混合型がありますが、まずは神経周囲の血流障害を改善するための血管拡張剤や消炎鎮痛剤などを投与します。神経根型では、薬物療法に加えて神経根や硬膜外へのブロック注射の効果が高く、中には1回のブロック注射で数年間痛みが消失している方もいます。一方で、馬尾型は保存治療の効果が低いといわれています。
金山 椎間板ヘルニアの多くは、1~3カ月程度で自然に吸収されて縮小・消失し、症状が落ち着くといわれています。そのため、落ち着くまでの期間の症状を抑えるために行う、痛み止めの内服薬や神経根へのブロック注射といった保存治療(手術以外の治療)が基本となります。痛みが強くなる前屈姿勢も日常生活の中で意識して避けるように指導しています。
坂浦 消炎鎮痛剤を長期間服用すると腎機能が低下することがありますので、注意が必要です。腎機能の低下は心筋梗塞のリスクも高め、腰部脊柱管狭窄症の手術後の治療成績が悪化するという報告もあります。薬局でもらう薬の説明書の副作用欄に腎機能低下のリスクが明記されていれば、漫然と服用を続けずに、医師や薬剤師に相談することをお勧めします。
坂浦 患者さんの年齢や社会的背景によって望まれる生活の質は違い、必要な歩行距離なども変わってきます。大事なのは患者さん自身が手術を決心されるかどうかです。「保存治療では症状が改善せず、痛みやしびれで生活に支障が出ていて困る。手術をしてでも現状を打開したい」と思われた時が、手術の良い適応とタイミングだと考えています。
金山 腰椎椎間板ヘルニアも腰部脊柱管狭窄症も、絶対的な手術適応は神経麻痺による筋力低下と排尿障害で、この場合は緊急手術となることもあります。消炎鎮痛剤の長期服用も、腎機能低下や胃潰瘍発症といったリスクを考えると、手術を前向きに検討する一つのきっかけになるのではないかと思います。
坂浦 脊柱管のみが狭窄している場合は、神経を圧迫している骨や靭帯を切除して脊柱管を広げる除圧術(開窓術)が適応となります。直視下で行う方法と内視鏡や顕微鏡を使用して行う方法があり、それぞれに特徴があるので、手術を受ける際は医師とよく相談されるといいでしょう。一方、腰椎変性すべり症など不安定性を伴う場合は、除圧術だけでは長期成績が良くないため、除圧術に加えて背骨のぐらつきやズレを安定させるために金属やスクリューで患部を固定する腰椎椎体間固定術を行います。従来のスクリュー固定法では、悪くなっている部分だけでなく、その一つ上の椎骨まで切開してネジを入れる必要があったので傷口が大きくなっていました。これに対し、近年注目を集めているより内側から刺入するCBT(Cortical Bone Trajectory:皮質骨軌道)スクリュー法では、悪くなっている部分のみ固定する手術なので侵襲が小さくてすみます。また、固定した場所に隣接する部分が将来的に狭窄症やすべり症を起こすリスクの低減や、スクリューが緩みにくいために骨粗しょう症など骨がもろくなった方にも良好な固定力が期待できるといわれています。
金山 手術の目的は、椎間板ヘルニアによる神経の圧迫を取り除くことです。従来の方法では、背中の皮膚を5~10cm切開して筋肉や靭帯を切ったり、骨を削ったりして脊椎に到達し、ヘルニアを摘出していました。これに対し、内視鏡を使って従来法よりも小さい約2cmの傷で行う手術もあります。さらに近年では、より進化した侵襲の小さい内視鏡下手術として、FED(フェド)(Fullendoscopic Lumbar Discectomy:全内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術(FESS、PED、PELDなどと呼ばれることもあります))が注目を集めています。これは、先端に内視鏡のついた直径7mmほどの筒を骨や筋肉を傷つけず直接ヘルニアに到達させ、その筒の中から手術器具を入れてヘルニアを摘出する方法です。従来法よりも傷が小さい身体への負担が少ない手術であり、出血や創部感染のリスクが低く、入院期間が短く、早期回復・早期社会復帰・早期スポーツ復帰が望めるため、仕事のある方や家族の世話が必要な方などには大きなメリットといえるでしょう。