
背骨治療の専門医に聞いてみました
椎体骨折は骨粗鬆症だけでなくがんの転移が原因となることも。低侵襲手術などさまざまな治療選択肢があります

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CHAPTER01加齢とともに骨がもろくなり椎体骨折のリスクが上がる
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CHAPTER02高齢者にも負担が少ない経皮的椎体形成術
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CHAPTER03〝がん治療の中継ぎ〟として整形外科が新しい役割を果たす


骨折ですから、折れた部分を固定して骨がつく(癒合する)のを待つのが基本です。
ただし背骨は脚や腕のようにギプスを巻くのはとても大変なので体型に合わせたコルセットをつくり、できるだけよい姿勢を保ちます。40~50代の方の骨折であれば、できるだけ自分の骨で骨折を治すために少し⻑めの臥床安静をおすすめする場合もあります。次の骨折の予防のために骨粗鬆症の治療も必要です。このように、できるだけ「骨だけで治す」のが骨折治療の理想です。患者さんが比較的若い場合は、こうした保存療法が第一選択になります。
一方、80代後半~90代の高齢の患者さんで、動けないほど強い痛みを訴える場合は、骨折早期でも手術が選択肢となることがあります。というのも、長くじっとしていると筋力が低下したり認知症が進んだりすることがあるため、手術を早いタイミングで検討することも大切なのです。ただし、手術は全身麻酔を伴うほか、出血や感染症など合併症のリスクがあります。手術が適応となるかどうか医師にしっかりと相談するようにしましょう。


患者さんへの負担(ダメージ)が少ない手術を低侵襲手術と呼びます。低侵襲手術の一つである経皮的椎体形成術はアメリカで開発された治療法で、日本でも2011年に保険適用となりました。これは、つぶれた椎骨の中に風船を入れてふくらませて椎体の形を復元し、中に骨セメントを注入して固める方法です。全身麻酔が必要ですが、手術の所要時間は数十分で終了します。背中から注射のような器具を挿入して行うので、5ミリぐらいの傷が2か所できるだけで出血も少なくて済みます。
たとえば、余命3か月を宣告されたがん患者さんが手術を選択するケースがあります。そのような患者さんは神経障害があると脚も動かない上に、痛みが強いせいでベッドから起き上がることができないことも多いです。そのままでは、痛みに耐えながらベッドの上で短い余生を過ごすことになります。考えるだけで辛いですよね。
経皮的椎体形成術などの低侵襲手術は、手術時間や入院期間の短縮を期待することができ、限られた生命予後期間であっても患者さんの生活の質を高められる可能性があります。また、がんの治療には、自分で体を動かすことが⼗分できるくらい元気であることが必要とされます。椎体骨折の手術で痛みを改善して体を動かせるようになることで、がんの治療を継続できるようになることもあります。
椎体がつぶれているだけでなく、骨の変形が強かったり、それが背中側に突き出して神経に当たったりしている場合は、しびれや麻痺のような神経障害が出ます。脚に力が入らなくて全く動かせない場合もあります。この場合は、神経の圧迫を取り除いた上で、金属でできた器具を使い骨を固定する手術が必要になります。経皮的椎体形成術に比べると、体力が必要な手術になるため患者さんの負担が大きくなりますし、骨がもろいとしっかり固定するのが難しくなります。
もちろん、患者さんの症状や体力はさまざまなので一概にはいえませんが、大きくはこの2つの方法を軸に、一人ひとりの体力や症状を勘案して適切な方法を探ることになります。