
背骨治療の専門医に聞いてみました
椎体骨折は骨粗鬆症だけでなくがんの転移が原因となることも。低侵襲手術などさまざまな治療選択肢があります

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CHAPTER01加齢とともに骨がもろくなり椎体骨折のリスクが上がる
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CHAPTER02高齢者にも負担が少ない経皮的椎体形成術
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CHAPTER03〝がん治療の中継ぎ〟として整形外科が新しい役割を果たす
高齢化の進行を背景に、がんに罹患する人は増え続けています。そのぶん、がんの治療も進歩していますから、多くの人ががんを抱えたまま長く生活することになります。すると、骨に転移するケースも当然増えます。がん転移に由来する骨折や麻痺は、これまであまり整形外科が積極的に取り組むべき課題として認識されてきませんでした。しかし近年、その考え方が変わりつつあります。
がん患者さんは、骨転移によって痛みが強くなったり、体力が落ちたりすると、それまで通りのがん治療ができなくなります。そこで、整形外科医により患者さんの痛みやしびれ、麻痺を治療し、体がスムーズに動かせるようにする。こうしてうまく中継ぎができれば、またがん治療が再開できます。がん治療における整形外科医の役割は、ピンチで登場する中継ぎピッチャーのようなものだと考えていて、「がん時代」の新しい整形外科治療といえると思います。
そうですね。患者さんの一人ひとりの状態に合わせて、さまざまな診療科の先生と連携しながらがんの治療に取り組んでいくことが大切です。例えば、骨転移があって原発がんがわからないケースでは、整形外科が中心となって診断し、原発巣を見つけてさまざまな診療科の治療へとつなぐことでがん治療をスムーズに進めることができます。
たとえば、両足に麻痺のある80代の患者さんで、骨転移による椎体骨折が先に見つかり、そこからさかのぼって原発がんである乳がんが明らかになったケースがあります。乳がんを担当する医師とも相談しながら先に神経障害の改善のための手術を優先することとなりました。術後、麻痺症状が改善されて歩行できるようになり、現在も乳がんの治療を続けられています。
がん治療にも体力が必要ですから、痛みがものすごく強かったり、寝たきりだったりすると、治療そのものが難しくなり、緩和治療しか選択肢がないという状態になることもあります。しかし、背骨をまず治療して痛みやしびれ、麻痺を改善できれば、がんの治療にもしっかり取り組めるようになり、治療の道が広がるのです。


「背中の痛み」と一口にいっても原因も症状もさまざまですし、治療法もさまざまです。納得のいく治療を受けるためには、症状や病態を正確に把握するだけでなく、患者さんの体力や価値観なども理解した上で、適切な治療法を選んでくれる医師や医療機関に出会ってほしいものです。そのためには、患者さんご自身や患者さんのご家族が情報を集める姿勢を持つことも重要です。信頼できる周囲の人に相談するのもいいですね。
辛い病気でも、「治りたい」という患者さん自身の強い思いが手術やリハビリの経過などにつながっていきます。ぜひあきらめず、ご自身の病状をよく理解して治療に取り組んでいただきたい思います。