中山 美数先生
医療法人社団白翔会 千葉白井病院
整形外科 脊椎・脊髄病センター長
資格:日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本整形外科学会認定リウマチ医
腰部脊柱管狭窄症の治療には保存療法と手術療法があります。保存療法には、痛みや炎症を抑えるために消炎鎮痛剤などの薬を使用したり、圧迫されている神経の血流を促進する薬を使用したり、狭窄している神経の周りに局所麻酔薬を注射するブロック注射といった治療が行われます。また、腰回りの筋力を高めるストレッチなどのリハビリテーションを行います。患者さんそれぞれの状態によって必要なリハビリは異なりますので、理学療法士の指導を受けて自分に合った方法で取り組みましょう。
いきなり手術を考えることは通常なく、まずはしっかりと保存療法に取り組みます。神経の圧迫が少なく、重症でなければ、保存療法だけで日常生活を問題なく継続できる方も少なくありません。しかし、保存療法では十分な効果が得られず、痛みやしびれのために仕事や日常生活に支障が出るようであれば、手術が視野に入ってきます。患者さんそれぞれの生活環境などに依りますが、100~200mほど継続して歩くのがつらいとなると、次の治療のステップとして手術を検討したほうが良いでしょう。
1990年代頃までに確立されてきた、一般的な手術方法は大きく2つに分けられます。ひとつ目が「除圧術」で、狭窄が発生している部分の骨を削る、または靭帯を取り除くなどして神経の圧迫を除去するものです。ふたつ目が「固定術」で、除圧した部分の背骨を固定させる方法です。すべり症などで背骨がグラついた不安定な状態の場合、除圧術だけでは再発しやすく固定術が必要になります。固定術では、自家骨(患者さん自身から採った骨)を移植した上で、生体親和性のある金属でできたスクリューやロッドで固定し骨融合を促します。いずれも手術はうつ伏せで行い、除圧術であれば10cm、固定術であれば15cmほど皮膚切開します。
従来は皮膚を大きく切開して手術を行っていましたが、近年では内視鏡を使った手術方法が開発され、患者さんの身体への負担を大幅に抑えられるようになっています。
例えば、脊椎内視鏡下椎弓切除術(MEL)と呼ばれる術式では、腰の後方に直径16mmの円筒状の筒を挿入し、その中にカメラや手術器具を入れてモニターで確認しながら手術します。傷は2cm程度で出血量も少なく抑えられます。最近では、さらに低侵襲な手術として、外径7~10mmの脊椎内視鏡を用いた全内視鏡下脊椎手術(FESS)が行われるようになりました。内視鏡を使ってヘルニアを摘出したり、神経を圧迫する靭帯や骨を切除したりする方法です。FESSを応用し、内視鏡下で固定まで行う全内視鏡下腰椎椎体間固定術も登場しています。内視鏡による手術では、脊柱管に到達するために皮膚を大きく切ったり、骨の周りの筋肉を剥がしたりする必要がないため、術後の回復やリハビリが早いのが特長です。
ただし、神経が圧迫されている期間が長かったり、神経が大きく損傷されていたりすると手術を行っても痛みやしびれが残ることがあります。さまざまな腰部脊柱管狭窄症の手術は、神経を圧迫していた原因を取り除くものなので、神経を直接的に回復させるものではないのです。そのため、できるだけ適切なタイミングを逃さずに手術を受けてほしいと思います。