背骨治療の専門医に聞いてみました
肩から上肢にかけて痛み・しびれを生じる「頚椎症性神経根症」多くの方が保存治療で軽快しています。
-
CHAPTER01神経の通り道が狭くなることで起こる『頚椎症性神経根症』
-
CHAPTER02『頚椎症性神経根症』で手術を受けるケースとは?
-
CHAPTER03手術後のリハビリ・退院後の生活について
先述のとおり、基本的には、薬・注射やリハビリといった保存療法で症状が治まるケースがほとんどですが、あま
り症状が変わらない場合は段階的に薬を増やし、3 か月ほど様子を見ます。そのうえで効果がないという人には、
手術についてもお話していきます。
保存療法である程度は治まっているが症状が残存している人は、残っている症状が日常生活にどれくらい差し支え
るのかを考えていただくこともあります。
例えば、車の運転を職業にしている人にとっては「運転中に何度も首をひねるので痛く、仕事に支障が出ている」
という場合がありますが、活動性が低いご高齢の人は「首をひねったら痛むこともあるが、運転免許は返納してい
るし、生活の上ではあまり困らない」ということもあります。
そういったことから、保存療法を経て手術に進むのは、80 ~ 90 代の高齢者より、40 ~ 50 代後半の中年の人に多
い傾向があります。そもそも、頚椎症性神経根症は生命を左右するものではないため、あくまでも患者さんご自身
の向き合い方がポイントになります。
手術には合併症などのリスクもあるので、手術を受けることで生じるメリット・デメリットと、頚椎症性神経根症
によって生じている症状・生活上のデメリットなどを、患者さんご本人に勘案していただきます。
頸骨の変形によって首の神経の通り道が狭くなっていることが原因なので、手術はそこを広げるという考え方に基
づいており、二通りの方法があります。
一つは、『前方固定術』と呼ばれる手術方法です。背骨の前側から切って変性している椎間板を削り、骨と骨の間
を持ち上げ、そこに人工のブロックと患者さんご自身の骨を入れて金属で固定するという方法です。骨が癒合して
安定し、神経の通り道の圧迫も改善されるというものです。
椎間板の代わりにするご自身の骨
は、あらかじめ『腸骨』という骨盤
の骨からとります。この部分の骨を
とることは、手術直後は多少の痛み
を生じさせるものの、安定後は痛み
も治まり、動作や生活への影響はほ
とんどありません。
もう一つは、『椎間孔拡大術』で、
こちらは、後ろから切開して骨を削
り、通り道を広げるという手術方法
です。後ろに逃げ道を作るという考
え方に基づいており、椎間を固定
する前方固定術に比べて「術後のカ
ラー(頸椎を固定するために首回り
に装着する器材)をつける期間が短
い」という特長があります。
しかし、変形が強い場合は、後ろに通り道を広げても前からの圧迫や頸椎のぐらつきが残り、痛みなどの症状を取り
切れないというケースもあります。
痛みをしっかり取り除きたい場合は、前方固定術の方が確実性は高いと言えます。
いずれも全身麻酔で行いますが、手術時間は1 時間~ 1 時間半程度です。全身麻酔が可能であれば、高齢の人でも
手術をうけていただくことができます。
術後は、首を動かせないようカラーを装着します。手術が1 か所の人は4 ~ 6 週間、
2 か所なら6 ~ 8 週間着けるのが目安です。そのうえで、「早く退院したい」という
人であれば、入院期間は約1 週間でも問題ありません。「カラーに慣れるまで日常生
活が不便だから」と、1 か月ぐらい入院する人もいます。術後の状態が安定してい
れば、患者さんご本人のご要望をお聞きします。
ちなみに、術後に痛みがある場合も、鎮痛剤など適切な疼痛管理を行います。
手術をした直接的な部分(骨や傷)より、筋肉など周辺組織が引っ張られたことによっ
て首の後方に痛みを生じることがあります。また、首ではなく、骨を採取した腸骨
部の方が痛いと訴えられる人もいます。いずれも、術後1 ~ 2 週間で落ち着く方が
ほとんどです。
術後のリハビリは、術前の運動麻痺がない方は上下肢の機能訓練というより、首が固定された状態の動きをサポー
トするものになります。カラーをつけていても日常的な動作ができたり、首に負担がかからない姿勢をとったり、
転倒しないよう注意したり……といったことを指導していきます。運動麻痺がある場合は機能訓練機能訓練を行う
必要があり、リハビリに時間がかかりますが、外来リハビリで対応可能であり、入院期間はあまり変わりません。