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背骨治療の専門医に聞いてみました

腰痛や足のしびれは背骨の病気が原因のことも。早期に専門医に相談し適切な治療を

岡崎 洋之先生
三愛会総合病院 整形外科診療部長
Dr. PROFILE
専門分野:脊椎外科・外傷全般
資格:日本整形外科学会整形外科専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、難病指定医、身体障害者福祉法第15条指定医師、小児運動器疾患指導管理医師
尾又 弘晃先生
三愛会総合病院 整形外科医長
Dr. PROFILE
専門分野:脊椎外科・外傷全般
資格:日本整形外科学会整形外科専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医、難病指定医、昭和大学整形外科兼任講師 医学博士
Q
腰部脊柱管狭窄症や腰椎変性すべり症の治療方法を教えてください。
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岡崎 多くの場合、症状はゆるやかに進むため、まずは保存療法(手術以外の方法)をしっかりと行います。保存療法では、鎮痛剤や神経の周りの血流をよくする血管拡張剤を使ったり、痛みを感じる神経を直接遮断するブロック療法(硬膜外ブロック・神経根ブロック)を用います。コルセットによる装具療法や、体幹を鍛える運動療法が有効なこともあります。一般的には、症状があまり進んでいない段階で受診された患者さんは、保存療法を行うことによって手術を回避できる可能性があります。

尾又 腰部脊柱管狭窄症は体を反らすと痛みが出やすいので、まずは日頃からそうした神経を圧迫する動作を避けるようにします。しかし、ただ安静にすればよいわけではなく、足の筋力低下を予防するためにも、可能な限り日常の活動性は維持していただきたいと思います。痛みやしびれが強いときは、無理をせず休みをとりながら仕事や家事をしてください。加えて、ご自宅でも簡単にできるリハビリを試してみましょう。仰向けに寝て両膝を抱え、おへそを覗き込むようなストレッチや、体幹を鍛える運動をお勧めしています。

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Q
手術を考えたほうがよいのはどういうときですか?

尾又 手術が必要なのは、痛みのせいで長く歩けないなど日常生活への支障が続き、保存療法では効果が得られない方です。また神経麻痺による筋力低下が進んでいるようなとき、症状が重度で尿漏れなどの排尿障害、排便障害が起きているときも手術適応と考えます。そうしたケースでは、早急に手術しないと神経がダメージを受け、術後も元の状態に戻せない場合があります。

Q
実際の手術はどのように行いますか?
腰椎後方椎体間固定術
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尾又 手術方法には、除圧術と固定術があります。除圧術は、脊柱管を狭くしている骨や靭帯、椎間板を削り、脊柱管を広げて神経の圧迫を和らげるもの。固定術は、除圧後に金属製の器具などで骨と骨の間を固定し、ぐらつきを抑えるものです。また切除した椎間板の部分には、ご自身の体から採取した骨(自家骨)を詰めたケージと呼ばれる器具を入れ、金具で留めることで、周りの骨との骨癒合(こつゆごう)を促します。さらに背骨の変形があれば、正しい位置に戻す矯正術も行います。

岡崎 背骨への進入方法では、うつ伏せで背中を切開して手術する後方進入が一般的です。一方、おなかや脇腹など、体の前面を切開し、内臓を避けながらアプローチする前方進入もあります。手術は多様に進化しており、例えば後方進入では棘突起縦割式拡大開窓術(きょくとっきじゅうかつしきかくだいかいそうじゅつ)という方法が開発されています。従来は切除していた棘突起を残して手術するもので、棘突起についた傍脊柱筋(ぼうせきちゅうきん)を温存できるのがメリットです。筋肉を残すことで、術後のスムーズな回復が見込めます。また前方進入でも、手術方法や器具の発達により、最近では肋骨や横隔膜を切開しないで、小さな傷から進入できる方法もあります。

Q
手術を受けられない場合や、合併症などのリスクについて教えてください。

尾又 全身麻酔での手術となるため、術前に採血や呼吸機能検査、心臓超音波検査を行います。検査で異常が見つかった方は、術前に必ず該当する診療科を受診していただきます。また、糖尿病の方は感染リスクが高まりますので、1週間ほど前に入院していただき、血糖値を十分にコントロールしてから手術に臨みます。
合併症については、術中術後に足の静脈に血の塊(血栓=けっせん)ができ、それが原因で肺の血管を塞いでしまう肺塞栓症(はいそくせんしょう)に注意しなければなりません。予防として、弾性ストッキングをはいたり、手術中から離床まで下肢の血管を圧迫する装置を用います。寝ている期間が長いほど血栓はできやすくなるため、術後なるべく早くリハビリを開始することも大切です。