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背骨治療の専門医に聞いてみました

脊髄腫瘍ってどんな病気?手足のしびれ、歩きにくい―悪化してしまう前に専門医に相談を

藤原 靖先生
広島市立安佐市民病院 整形外科・顕微鏡脊椎脊髄センター主任部長
Dr. PROFILE
資格:日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄医、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医、医学博士
専門分野:整形外科一般、脊椎・脊髄外科
大田 亮先生
広島市立安佐市民病院 整形外科・顕微鏡脊椎脊髄センター部長
Dr. PROFILE
資格:日本整形外科学会整形外科専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、医学博士
専門分野:整形外科一般、脊椎・脊髄外科
古高 慎司先生
広島市立安佐市民病院 整形外科・顕微鏡脊椎脊髄センター副部長
Dr. PROFILE
資格:日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医、医学博士
専門分野:整形外科一般、脊椎・脊髄外科
Q
脊髄腫瘍について教えてください
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脊髄腫瘍はまず、脊髄の中にできる髄内腫瘍(ずいないしゅよう)と、外にできる髄外腫瘍(ずいがいしゅよう)に分けられます。さらに髄外腫瘍の中で、硬膜の中にできる硬膜内髄外腫瘍(こうまくないずいがいしゅよう)と、硬膜の外にできる硬膜外腫瘍(こうまくがいしゅよう)に分けられます。そのほか、例えば硬膜の中と外、脊柱管の中と外といった複数の部位にまたがるような腫瘍があり、砂時計腫(すなどけいしゅ)と呼ばれます。ただ、腫瘍の種類は様々で、これらに当てはまらないものも多くあります。
髄内腫瘍の発生部位は主に4つあり、上衣腫(じょういしゅ)という脊髄の中心管のトンネルにできる腫瘍、次いで星細胞腫(せいさいぼうしゅ)という脊髄の星細胞という細胞から発生するもの、あとは脊髄の中の血管にできる、血管腫(けっかんしゅ)と血管芽腫(けっかんがしゅ)となります。硬膜内髄外腫瘍については、神経の枝から発生する神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)という腫瘍が特に多く、次いで髄膜腫(ずいまくしゅ)という硬膜から発生する腫瘍が多くなります。硬膜外腫瘍に関しては、肺がんや乳がんなど他の部位からのがん転移が主な原因です。これらの腫瘍は良性のものが大部分を占めますが、いま述べた中ですと、星細胞腫は悪性の割合が高いといわれています。

Q
脊髄腫瘍になるとどのような症状があらわれますか?

一般的に手足のしびれや麻痺が出てきます。突然症状が出てくる場合は、血管に関係した出血で悪化したケースが考えられ、そうでない腫瘍については緩やかに悪化、進行していきます。悪化、進行すると、次第に動きにくい、歩きけない、手足が使えないという状態になっていきます。
進行するスピードも腫瘍の種類によって異なりますが、早く症状が進む場合はあまり良くないケースが多いです。出血で悪化する場合は別ですが、早く進行する腫瘍ほど治りが悪い傾向があります。一概には言えませんが、悪性の星細胞腫になると3か月で麻痺が進行して歩けなくなるというケースもありますし、1か月後のMRI検査で腫瘍が倍くらいに大きくなっていたというケースもあります。進行スピードは患者さんによって様々ですから、悪化してしまう前にできるだけ早く治療を進めることをお勧めします。

Q
脊髄腫瘍の治療法について教えてください

一般的ながん治療では放射線治療などが行われていますが、脊髄自体が放射線治療に対してあまり強い組織でないなどの理由から、脊髄腫瘍では行われていません。腫瘍をみつけたらまず手術をして摘出するという方法が第一選択になる場合がほとんどです。
手術はほとんどの場合、背中側から骨を削って脊髄を取り出し、硬膜の中にある腫瘍であれば硬膜を切開して、脊髄の中にある腫瘍であれば脊髄の表面を切開して腫瘍を摘出します。

Q
脊髄腫瘍の手術ではどのようなシステムが使われているのでしょうか?
神経モニタリング
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手術では脊髄など神経に近い部分へ向かって進入するため、神経を傷つけないよう注意しないといけません。脊髄は小指の幅くらいしかない組織なので、肉眼での手術には限界があり、手術用顕微鏡で10倍ほどに明るく拡大して行うのが一般的です。また、神経を避けるために神経モニタリングと呼ばれる装置を使用します。これは、術中に神経が損傷していないかモニターで知らせてくれるシステムで、神経を避けながら手術を進めるのに有効的です。このほか、腫瘍を取り除くために超音波振動を使ったメスの普及やナビゲーションシステムの発展によって、安全かつ正確に腫瘍を摘出できる手術環境が広がりつつあります。

Q
合併症など手術のリスクについて教えてください

脊髄腫瘍の手術は、腫瘍の発生場所などによって難易度も異なります。脊髄の外にある腫瘍であればリスクもそこまで高くありませんが、脊髄の中にある腫瘍になると脊髄そのものを切開するため難易度は高くなってきます。ただ、先ほどご紹介した顕微鏡、神経モニタリングなどのシステムの進歩があって、現在はずいぶん安全な環境で手術ができるようになっています。脊髄の手術は神経麻痺のリスクが懸念されるので、こうした合併症の予防にも繋がっていると思います。手術を恐れて、症状が進行してからの手術となると、なかなか回復しないという状況になりがちです。あまり強い症状がないと手術をしたくないという気持ちはあると思いますが、やはり腫瘍はだんだん大きくなっていく場合が多いので、悪化する傾向があるようなら早めに手術を検討したほうが、術後早い回復を期待することができます。