長山 隆一先生
医療法人寺西報恩会 長吉総合病院 整形外科統括部長
専門:脊髄脊髄外科
代表的な疾患は、腰部脊柱管狭窄症です。脊椎(背骨)は椎間板や椎間関節、黄色靭帯などに囲まれ脊柱管と呼ばれる神経が通るトンネルがあります。そのトンネルが何らかの原因で狭くなることで神経が圧迫され、痛みやしびれを生じる総称を腰部脊柱管狭窄症といいます。この原因には、加齢や労働などの影響による脊椎の変形(成人脊柱変形)や椎間板の膨隆(腰椎椎間板ヘルニア)、脊椎や椎間関節からの骨の突出、黄色靭帯の肥厚などが考えられます。加齢性変化が主な原因のため、60 歳以上の約10%にみられるという報告もあり、男性の約2 倍女性に多いのが特徴です。
また、高齢女性に多い脊椎圧迫骨折は、骨折による痛みが主な症状ですが、骨折によって神経圧迫を生じる場合は、下肢痛やしびれ感が出ることもあります。
下肢の痛みやしびれを訴える方が多いですが、腰痛に関しては、神経だけの問題ではなく、筋肉や骨などの複合要因が関与して発症すると考えられています。しかし、全く腰痛のない方もおられるので、代表的な症状とはいえないようです。一方で、「歩くと下肢に痛みやしびれを感じ、休憩すると良くなる」を繰り返し、長く歩くことができない間欠性跛行(かんけつせいはこう)は典型的な症状といえます。また、背筋を伸ばして歩くと症状が出るけれども、前かがみになると脊柱管が広がるため症状が軽減する方もおられます。そのため、自転車ならいくらでもこげるという方が多いのも特徴だといえるでしょう。症状が進行すると下肢筋力の低下、肛門周囲のしびれや火照り、膀胱直腸障害による排尿・排便障害が出ることもあります。
痛みやしびれによって歩くのが遅くなったなど、生活に影響が出ていれば、整形外科を受診することをお勧めします。特に痛みに関しては早めに受診するほうが、治療経過が良いといわれています。
腰部脊柱管狭窄症の治療は、身体をそらさない、歩行時はシルバーカーを使用するなどの生活指導や、牽引・温熱といった物理療法、リハビリによる筋力強化、痛み止めの内服薬の投与、ブロック注射などを行っていきます。脊椎圧迫骨折による腰痛にはコルセットが効果的です。痛みが強い方には安静を促しますが、身体が硬くならないように、痛みが治まったら積極的にリハビリを行うことをお勧めします。受診時にあまり進行していない段階であれば、保存療法だけで症状が改善することも十分に可能です。また、腰部脊柱管狭窄症の原因の一つでもある腰椎椎間板ヘルニアには、保存療法の一つとして、「椎間板内酵素注入療法」もあります。これは、椎間板にコンドリアーゼという薬を注入することでヘルニアを縮小させる治療です。手術するほど進行していないが、従来の保存療法ではあまり効果を感じられないという方は、試してみる価値があると思います。保険適用となっているのですが、この治療を受けられるのは一生に1 回だけ。治療効果やその持続期間にも個人差があり、全ての方に有効というわけではありませんが、手術までの治療選択肢が増えたことは喜ばしいことだと思います。