山崎 昭義先生
社会医療法人仁愛会 新潟中央病院 院長
資格:医学博士、日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会脊椎脊髄病医、日本整形外科学会脊椎内視鏡下手術 技術認定医、日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医、日本脊椎脊髄病学会評議員、東日本整形災害外科学会評議員、日本脊椎インストゥルメンテーション学会評議員、日本腰痛学会評議員、新潟大学医学部臨床教授
頚椎(けいつい)というのは、狭い意味では骨そのものを指します。広い意味では、骨と骨とを連結させる椎間板(ついかんばん)や、それを補強するじん帯、その周りにある筋肉を含めた神経の入れ物のことを指します。頚椎の真ん中には太いトンネルがあり、そこに脊髄という太い神経が入っています。それは人の体のメインとなる神経で、首から腰の上の方までつながっています。さらにそこから神経根(しんけいこん)と呼ばれる細い神経が骨と骨の間から左右に1本ずつ枝分かれしており、腕に向かって延びています。
頚椎椎間板ヘルニアというのは、骨と骨の間でクッションの役割をする椎間板が傷み、破れて中身が出てしまう状態です。椎間板の中が乾燥し、ひび割れが発生することで起こります。椎間板はコラーゲン線維で補強された軟骨(線維軟骨)でできており、通常は70%くらいの水が含まれているものですが、老化により保湿作用が減少していくことで、ひび割れが発生するようになります。そうして壊れた内部構造が吐き出され、それが神経に当たると、痛みを引き起こします。
一方、頚椎症というのは頚椎の老化による変形によって起こる症状ですが、それによって脊髄が圧迫されると頚椎症性脊髄症と呼ばれます。脊髄ではなく神経根が圧迫されると、頚椎症性神経根症となり、両方起こる場合は頚椎症性脊髄神経根症となります。いずれも頚椎の痛みに加え、上肢、場合によっては下肢のしびれや、力が入らないという症状が現れます。これらの症状が続くと筋肉がやせてくることがあります。
頚椎椎間板ヘルニアも頚椎症も、どちらも原因は老化です。頚椎の前方には線維軟骨でできている椎間板があり、後方の椎間関節にも軟骨がありますが、どうしても軟骨は老化と共に減っていきます。そうすると、骨と骨がぶつかるようになり問題が生じるわけです。ちなみに、軟骨の老化の原因には、動脈硬化など血管の老化が挙げられます。糖尿病や高血圧、脂質異常、喫煙などが全身の血管の老化の主たる原因です。一般的には30~40代から始まることが多いです。性別は、女性よりも男性の方が多いと思います。
軟骨の老化の局所的な要因としては、首や頭への衝撃があります。コンタクトスポーツで繰り返し外力を受けることで軟骨の老化が早まる可能性がありますので、中高年になってからは特に注意した方がよいでしょう。
症状が出る順番には一定の傾向があり、まず最初に首の痛みや手足のしびれが現れることが多いです。痛みは首から始まって、その後に腕の方に痛みが走る場合と、背中側の肩甲骨に走る場合があります。頚椎が原因で足がしびれることはありますが、足自体に痛みが生じることはあまりありません。足に痛みを感じる場合は、胸椎や腰椎が原因となっている可能性が高く、それらを調べた方がいいかもしれません。
さらに症状が進んでいくと、脱力感で手足に力が入らなくなります。もっと進むと、脚のバランスが悪くなり、ふらついて歩行が困難になることもあります。あるいは痙性(けいせい)歩行といって筋の緊張が高まる場合があり、とても歩きにくくなります。
例えば、横断歩道を渡っている途中で信号が点滅し、小走りをしなければ間に合わない時に足がもつれるようだと、それは脊髄の障害が起きているサインの一つと取ることができます。その時は整形外科を受診することをお勧めします。
ちなみに椎間板ヘルニアの場合は、椎間板が骨と比べて柔らかいため、自然に縮小して治る場合があります。ただ、痛みが消えると同時に力が入らなくなるようであれば、逆に病気が進んでいる可能性があります。一方、頚椎症の場合は自然に治る可能性はほとんどありません。神経の麻痺が重症化する前にできるだけ早く受診をした方がいいでしょう。痛みというのは神経が発するSOSですので、注意を払う必要があります。
まず、手足のしびれがあるかどうかをお聞きします。痛みについては、患者さんはご自身から話をしてくれますが、しびれについてはご本人が言わない場合があるからです。頚椎の場合、首が痛いだけであればそれほど問題はないですが、肩甲骨の方まで痛みがきたり、肘や指先まで電気が走るような感覚があるようでしたら神経の障害が強く疑われます。その後、まずレントゲン撮影をしますが、首の場合は構造物が小さいため、レントゲンだけでは分かりにくいため、CTやMRIで確認し、どこに原因があるかを探します。
あとは、日常生活でできないことがないか?仕事を休んでいないか?をお聞きしていきます。痛みの感じ方は人によって異なりますので、日常生活を送る上でどれくらい困っているかを聞くことが重要です。