安野 雅統先生
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院
整形外科医長 脊椎センター副センター長
資格:日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、日本脊椎脊髄病学会指導医
全身に対する治療(全身治療)と、転移している部分とその周辺に対する治療(局所治療)に分けられます。全身治療は抗がん剤治療やホルモン療法、局所治療には放射線治療や手術(外科治療)などがあります。患者さんの状態に合わせてこれらの治療を計画的に進めていきます。
がんの種類・年齢・進行度、症状などにより、全身治療を優先すべきか、放射線治療か、まずは手術をしてから放射線あるいは薬物療法につなげるか、患者さん毎に慎重な診断を要します。そのため、がんの治療を行っている主治医、放射線治療を担う医師、整形外科医など複数の診療科が関わり(多職種連携)、個々の患者さんにとって適切な治療を計画していきます。それぞれの立場から意見を出し合って、病院全体としてより良い治療を提供するための取り組みです。
大きく分けると、骨破壊により不安定となった背骨を安定化させる固定術と、神経の圧迫を取る除圧術があります。転移の状態に合わせて、これらを単独で、あるいは組み合わせて手術を行います。ここ10~20年くらいを振り返ってみると、経皮的スクリューの普及に代表される手術法の低侵襲化が進んでおり、転移性脊椎腫瘍においてもこうした技術が応用されています。
従来の方法と比べて小さな傷口から背骨を安定化させるインプラントを挿入することができ、筋肉のダメージが少なく、出血量が抑えられるなど患者さんの負担を軽減できるのが特徴です。そのため、術後早い時期にリハビリを開始することが可能となり、その後の放射線照射や全身治療にスムーズにつなげやすくなります。神経の圧迫を取る除圧術は、神経損傷などの合併症を防ぐため慎重な操作が求められます。そのため、顕微鏡や拡大鏡を用いて手術をします。また、出血しやすい脊椎腫瘍に対しては、手術の直前に、がん細胞を栄養する血管を人工的に閉塞させる腫瘍動脈塞栓術を行います。
痛みに対しては麻酔科医との連携により各種薬剤で対応します。経皮的スクリューの使用などにより手術部位の痛みの軽減ははかれますが、だいたい術後3日程度は鎮痛剤を積極的に使うように患者さんに提案しています。その後、傷の痛み自体が大きな問題となることはあまりありません。合併症としては、出血・感染・神経損傷などがあります。転移性脊椎腫瘍の手術ではこれらの発生率が比較的高く注意が必要です。