安野 雅統先生
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院
整形外科医長 脊椎センター副センター長
資格:日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、日本脊椎脊髄病学会指導医
背骨は、首部分(頚椎・けいつい)が7個、胸部分(胸椎・きょうつい)が12個、腰部分(腰椎・ようつい)が5個の椎骨(ついこつ)と呼ばれる骨で構成されています。その中にあるトンネルのような空洞部分を脊柱管(せきちゅうかん)と呼び、脳から繋がる神経が通っています。骨と骨の間には椎間板(ついかんばん)があり、体重がかかった時に衝撃を和らげるクッションのような役割を果たしています。
腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭(きょうさく)症が代表的な疾患です。腰椎椎間板ヘルニアは椎間板が神経に向かって飛び出す病気で20代~40代の比較的若い世代で発症することが多く、おしりから下肢にかけて痛みやしびれ(坐骨神経痛)があり、座っていると症状が強くなりやすいのが特徴です。腰部脊柱管狭窄症は、加齢などで骨や靭帯が分厚くなったり骨の位置がずれたりすることで脊柱管が狭くなり、中を通る神経が圧迫される病気です。60代~70代の方が多く、症状としては、腰痛や坐骨神経痛のほか、長い距離を歩けない間欠跛行(はこう)が主な症状です。
日常生活や仕事をするのに支障を来たすような痛みが数日続くようなら、早めの医療機関受診をおすすめします。まずは近隣の整形外科クリニック受診をご検討ください。また、痛くて寝られなかったり、安静にしていても不快な痛みやしびれがあったりする場合はより早期の受診を推奨します。さらに、すでにがんを指摘されている方に発生した腰痛や、発熱・体調不良を伴う痛みの場合、骨転移や感染症などの重大な病気が原因となっている可能性があるため注意が必要です。
実際の診察ではまず問診・身体検査により詳細な症状経過、痛み・しびれの性状・程度を把握し必要に応じレントゲンやMRIなどの画像検査を行い診断します。
体内の別の場所に発生したがん細胞が血流を介して背骨に病巣を形成するのが転移性脊椎腫瘍です。病変部が増大し骨を破壊すると、腫瘍そのものや壊れた骨の一部が神経を圧迫して痛みやしびれ、運動麻痺などの神経障害を引き起こします。骨転移診療ガイドラインによると、進行がんの骨転移の罹患率は、乳がんが65~75%、前立腺がんが65~75%、次いで甲状腺がんが40~60%、肺がん30~40%、膀胱がん40%となっており、特にこれらのがんを有する、あるいは治療歴がある患者さんに対しては、骨転移を念頭に診療にあたります。
症状は転移を来した場所やがんの種類によってさまざまです。転移があっても無症状で経過することも多くみられます。発症すると、先述の通り、痛みやしびれの他、ふらつき、筋力低下など運動機能の低下が問題となります。特に頚椎や胸椎の転移では、脊髄の圧迫により進行性の歩行障害や排泄障害を来し緊急手術が必要となる場合があります。また、長く続く腰痛やしびれが気になり整形外科を受診したところ、それまで指摘されていなかったがんに伴う骨転移による症状だと判明する場合もあります。