水野 広一先生
土浦協同病院 整形外科部長
1990年 東京医科歯科大学医学部卒業、2004年 東京医科歯科大学大学院卒業、2020年4月~土浦協同病院整形外科部長
取得資格:日本専門医機構整形外科専門医、日本整形外科学会脊椎脊髄病医、日本脊椎脊髄病学会専門医、日本脊椎脊髄病学会指導医
所属学会:日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会、日本脊椎インストゥルメンテーション学会、日本腰痛学会
足のしびれを起こす病気としては、神経の通り道である脊柱管(せきちゅうかん)が何らかの原因で狭くなり、神経が圧迫されて起きる腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)が代表的です。また、腰椎(ようつい:腰の骨)の間にある椎間板がとび出て神経を押してしまう腰椎椎間板ヘルニア(ようついついかんばんへるにあ)、足の筋肉や皮膚などに広がる末梢神経がダメージを受ける末梢神経障害、足の組織に酸素や栄養が十分に行き渡らない血行障害などもしびれを起こす原因として知られています。
腰痛についても、足のしびれと同じく脊柱管狭窄症が主な原因のひとつです。その他、腰椎の安定性がなくなりぐらぐらしてしまう腰椎不安定症、椎間板ヘルニア、姿勢が悪いことで発生する腰痛、加齢に伴う背骨の変形などいろいろな要因が考えられます。
脊柱管狭窄症は、加齢に伴って椎間関節(ついかんかんせつ)や黄色靭帯(おうしょくじんたい)、椎間板が厚くなって神経を圧迫するもので、中高年になってくると誰にでも起こり得る病気です。積み木のように重なった腰椎がすべってせり出してくる、腰椎すべり症(ようついすべりしょう)によって狭窄が起きることもあります。腰椎すべり症は女性に多いといわれています。
脊柱管狭窄症の症状として典型的なのが、お尻から太もも、ふくらはぎにかけて痛みやしびれが出る坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)です。歩くうちに痛みが出てきて長い距離を歩けなくなる間欠性跛行(かんけつせいはこう)を伴うこともあります。間欠性跛行は足の動脈硬化によっても起きるのですが、見分けるポイントとしては「前かがみになると楽かどうか」です。動脈硬化であれば、姿勢に関わらず痛みやしびれがあるのに対し、脊柱菅狭窄症の場合、腰を丸めると脊柱管が広がって圧迫が和らぐため、「ショッピングカートを押したり、自転車に乗ったりする動作は平気」という人がほとんどです。
脊柱管の狭窄により、複数の神経が一度に障害されると、痛みはなくても足に力が入らない、脱力感が出るといったことがあります。中には足首をそらしにくくなり、つま先を引きずらないように足を高く上げてパタンパタンと歩くような人もいます。力が入らない、小さい段差でもすぐつまずく、膝が崩れてしまうといった症状は、麻痺(まひ)が疑われるものです。麻痺が重症化すると、足首がだらんと垂れてしまい、自分の意思では動かせなくなります。患者さんによっては、「玉砂利を踏んでいるように感じる」「厚い靴下を履いているみたい」など、足裏の感覚異常を感じることもあります。
痛みやしびれが数週間続いているようであれば、一度整形外科を訪ねることをお勧めします。急性腰痛(ぎっくり腰)なら安静にしていれば1週間ほどで良くなることが多く、痛みが落ち着いてきて生活に支障がなければ、そのまま自宅で様子をみるのでもいいでしょう。ただし、麻痺の症状がみられるときはなるべく早めに受診するようにします。また、尿が出にくい、残尿感があるといった排尿障害が出ているときも、受診を急いでほしいと思います。脊柱管狭窄症には、脊柱管の中央を走る馬尾神経(ばびしんけい)が圧迫される馬尾型(ばびがた)と、左右外側を走る神経根が圧迫される神経根型(しんけいこんがた)、どちらも圧迫される混合型があります。より重篤で治療が急がれる馬尾型では、進行すると膀胱へ影響が出ることがあり、排尿障害などにつながるのです。