水野 広一先生
土浦協同病院 整形外科部長
1990年 東京医科歯科大学医学部卒業、2004年 東京医科歯科大学大学院卒業、2020年4月~土浦協同病院整形外科部長
取得資格:日本専門医機構整形外科専門医、日本整形外科学会脊椎脊髄病医、日本脊椎脊髄病学会専門医、日本脊椎脊髄病学会指導医
所属学会:日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会、日本脊椎インストゥルメンテーション学会、日本腰痛学会
保存療法を続けていても改善せず、痛みやしびれのために生活に支障があるとき、麻痺や排尿障害が出ているときは手術の適応となります。
脊柱管狭窄症は一般的な腰痛とは異なり、狭くなった脊柱管が自然に広がることは基本的にはありません。患者さん目線では、「今ある症状がずっと続くと考えたとき、許容できるかどうか」がひとつの判断基準となります。症状があってもそこまで気にならず、生活上困っていないのであれば、もちろん手術を急ぐ必要はないでしょう。反対に、「この痛みやしびれが、時間が経っても自然治癒しないのであればどうにかしたい」と考える人にとって手術は次の選択肢となります。
背骨の変形がなく安定している場合は、神経の圧迫を取り除く除圧術(じょあつじゅつ)を行います。うつ伏せに寝た状態で背中側から切開し、狭窄が起きているところの骨を削ったり、靭帯を取り除くことで狭くなっていた脊柱管を広げます。内視鏡を使ったより低侵襲な手術方法もあります。
背骨が歪んでいたり不安定な場合には、固定が必要になってきます。その方法のひとつが、後方椎体間固定術(こうほうついたいかんこていじゅつ)です。神経の圧迫を解除した後、一部の椎間板を切除してケージと呼ばれる人工物を挿入し、スクリューやロッドといった金具(インプラント)で固定します。ケージには患者さん自身の骨(自家骨)を入れて移植し、骨癒合を促します。固定することで姿勢を維持し、脊柱の安定性を保つのがねらいです。
手術に使用する器具やインプラントは、この10~20年で大幅に改善されてきています。例えば後方椎体間固定術は、以前はケージがなく自家骨をそのまま移植していたために、術者の技術が問われる手術となっていました。ケージの開発でより安定した手術ができるようになったほか、ケージ自体の素材や形状も、手術しやすく骨癒合が進みやすいように進化しています。また、移植のための採骨でも、以前は患者さんの骨盤の骨を使っていたのですが、近年では除圧時に採った骨に人工でできた骨(人工骨)を混ぜて移植する方法が開発されました。さまざまな改善により、患者さんにとって手術の負担は小さくなってきています。
他の整形外科手術と同じく、手術による細菌感染のリスクは完全にゼロにはできません。少しでも発生の可能性を下げる必要があります。糖尿病の患者さんは手術による感染リスクが高まります。術前にしっかりと血糖値のコントロールをすることが重要です。また喫煙している人も感染しやすくなるため、少なくとも手術1カ月前からは禁煙に努めていただきます。
また、手術操作に伴う神経の障害がごくまれに報告されています。不測の事態があった場合、入院期間がしばらく延びることもあり得ますので、社会復帰へのスケジュールには余裕をもたせることをお勧めします。