メニュー

背骨治療の専門医に聞いてみました

くびの痛みや手足のしびれ 我慢せずに専門医に相談を。まずは原因の見極めが大切です

梅林 猛先生
東京脊椎クリニック 院長
Dr. PROFILE
資格:日本脳神経外科学会専門医、日本脊髄外科学会認定医、日本脊髄外科学会指導医
所属学会:日本脳神経外科学会、日本脊髄外科学会、日本脊椎脊髄神経手術手技学会
Q
手術の適応となるのはどのようなときですか?

圧迫されているのが神経根であれば手術以外の方法で改善できるケースが多いですが、脊髄が圧迫されているようなときは手術が選択肢といえます。一度傷ついた脊髄は治らず、悪い状態を放置するほど手術後もしびれが残りやすいためです。また、傷ついているのが神経根か脊髄かに関わらず、眠れないほどの激痛でとても様子をみていられない場合や、排尿・排泄などの障害がある場合は手術を検討します。
判断が難しいのは、後縦靭帯骨化症のように少しずつ神経の圧迫が進んでいるようなケースです。進行があまりにゆっくりのため、自覚が得られにくく、多少手が動かしづらくても患者さん自身は以前との違いに気づきません。ただ、そうした場合、あるとき限界点を越えて急激に悪くなることが少なくないのです。画像をもとに、そうなる前に手術に踏み切るのもひとつの選択肢ではあります。頚椎の病気は直接生命に関わるものではないため、手術するかしないかは最終的には患者さんの考え方次第です。担当医師とよく相談し、決断してほしいと思います。

Q
くびの手術はどのように行いますか?
椎弓形成術
閉じる

手術には病態によっていろいろな方法があります。代表的なもののひとつが椎弓形成術(ついきゅうけいせいじゅつ)です。もともと日本で開発された術式で、さまざまな疾患で適応となるため脊椎手術では多く行われています。椎弓形成術では、うつぶせに寝た状態でくびの後ろの部分を切開して頚椎に達し、椎弓という骨の一部を切り離します。その隙間へ金属でできた器具(スペーサー)を挿入することで、狭くなった脊柱管を広げて神経の圧迫を解除する方法です。また、症状の原因が神経根だけのものであれば、顕微鏡を使った椎間孔拡大術(ついかんこうかくだいじゅつ)も有効です。仰向けに寝た状態でくびの前側やや外側の皮膚を切開し、ヘルニアや骨の一部など神経を圧迫している部分を取り除きます。傷口が小さいことから体への負担が小さく、他の手術と比べて早期の社会復帰を期待できるのがメリットです。
さらに、椎間板ヘルニアなどの頚椎症に対し人工椎間板置換術(じんこうついかんばんちかんじゅつ)という方法が日本に導入されています。これまでは前側から手術をする場合、前方除圧固定術(ぜんぽうじょあつこていじゅつ)が主に行われていました。椎間板や骨を削って神経の圧迫を取り除いた後、人工骨で固定する方法で、全国的に症例数が多く一般的な手術といえますが、固定をしてしまうことで術後、手術をした上下の椎間板に負担がかかりやすいのが難点でした。人工椎間板置換術では、椎間板を切除した後に可動性のある人工椎間板を設置します。これにより従来通り神経の圧迫を取り除きながら、自然に近いくびの動きを残し、上下の椎間板で障害を起きにくくするのがメリットです。人工椎間板置換術は受けられる施設に限りがあります。また手術方法によって適応が異なりますので、担当医師と相談しながらご自身にあった治療を進めていくことが大切です。

Q
知っておくべき手術のリスクや合併症はありますか?

手術方法によって、留意しておく点は異なります。前側から手術を行う場合は、くびの前側にある気管や食道、外側にある総頸動脈・静脈などを傷つけないよう避けて手術するため、高い技術力が求められます。術後、声がれや飲み込みづらさなど反回神経麻痺(はんかいしんけいまひ)の症状が出ることがまれにあります。一方、後ろ側から行う手術では、術後にくびから肩にかけて痛みやこりを感じる軸性疼痛(じくせいとうつう)が起きることがあります。いずれも多くは一時的なものですが、慎重に経過をみなければなりません。
合併症としては、他のさまざまな手術と同じように、わずかながらに感染症や血栓症のリスクがあります。特に、糖尿病などの持病がある人は、これらの発生率が高くなってしまいますので、手術を受けられるかどうか主治医に相談するようにしましょう。また、手術は全身麻酔で行いますので、全身状態が悪く麻酔に耐えられない人は手術が適応外となることがあります。